第342回 一木北光会 講演報告

2013年 8月 29日(木曜日) 14:11 事務局
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平成2574日(木)に第342回一木北光会講演会が行われました。

講演者は 菅藤昭良(H43)氏 ルービイ工業㈱ 技術顧問(工学博士)

テーマは 【自己潤滑性(軸受)材料】についてご講演頂きました。

以下は講演内容についてです。難しい内容ですが、概略を記してみました。

【講演内容】

1)自己潤滑性材料は欧米などの学術誌ではSelf-lubricating Material (Bearing)と呼ばれ、日本ではオイルレスベアリングや無給油軸受などと言われている。

JIS ASTMなどではOil-impregnated Bearing (含油軸受)などと規定されている。

要は外輪と内輪を構成するボールベアリング、また浮動軸受と異なり、潤滑剤を必要とする軸受でありながら、外部から潤滑油(剤)を全く供給しなくても、長期間使用できる軸受である。

2)使われる箇所として高荷重の箇所、揺動運動や直線往復運動箇所、起動停止の頻繁な箇所などでその性能を発揮できる。さらに軸受基材と潤滑剤を組み合わせることで高温雰囲気や真空中そして水中などの特殊な条件下でも適用でき多くの使用実績がある。

3)自己潤滑性材料を構成する材料でもっとも重要なものは固体潤滑剤である。固体潤滑剤には天然で得られる黒鉛や二硫化モリブデン、そしてPTFEやナイロンなどの合成樹脂、さらには石鹸類や各種の金属化合物なども使用されている。

4)これらの固体潤滑剤は

①タブレット状などに成形して基材に埋込む、

②摺動面上に被膜化する、

③基材と混ぜて焼結体とする、

などの方法で基材と一体化させて使用する。

5)これらの固体潤滑剤を含む自己潤滑性材料は多くの分野になくてはならない軸受として自動車、鉄道、OAAV機器、一般産業機械、住宅、医療福祉機械など多岐に渡って使用されている。

6)自己潤滑性材料の中で基材を金属系とする材料の幾つかを紹介する。

(1)製造されてからおよそ半世紀以上に渡って使用されている成長鋳鉄含油軸受材料がある。この材料はねずみ鋳鉄をA変態点の上下で熱処理を繰り返して多孔質化させ、これに潤滑油を含浸させた軸受である。鋳造材のため寸法に制限がなく、良く発達した片状黒鉛が基材に一様に分布しているため潤滑性に優れ、かつ価格も割安感があるため自動車や一般機械用の部品として生産されている。

(2)高荷重の条件下で性能を発揮する固体潤滑剤埋込型軸受がある。基材となる金属に穴をあけ、これに固体潤滑剤を埋め込んで軸受とする。埋め込まれた潤滑剤の性能は被膜のみの場合と比べ明らかにその効果が認められる。埋込型軸受は射出成形機などのトグル軸受として長い使用実績がある。

(3)一般産業機械の中には鋼材の穴あけや成形工程の際に衝撃荷重を受けるカム部材がある。これらカムからの衝撃荷重を受ける軸受はこれまで鋳鉄製の部材が多く使用されてきたが、油やグリースを併用するため環境改善の一環として固体潤滑剤分散型複層軸受が使用されてきている。この材料は鋼材を裏金とし摺動面のみを薄い自己潤滑性材料で覆った複層材料である。表面の自己潤滑性材料は耐摩耗性と強度のある特殊銅合金焼結材とし、裏金に鋼材を使用しているため耐衝撃性に優れている。図2に鋳鉄製軸受プレートとの耐荷重性の比較を示す。この複層材料の耐荷重性が良好であることが知られる。

(4)最後に鋳造法による自己潤滑性材料の特長を述べる。鋳造法による自己潤滑性材料の創製は過去に幾つか報告例があり、その優れた軸受特性も明らかにされている。しかし材料の歩留りや製造装置に難点が有りこれまで実用化されていない。そこで今まで顧みられなかったダイカスト鋳造法と潤滑剤である黒鉛の表面特性を研究することにより比較的容易に自己潤滑性材料を得られることが分かった。基材を特殊Al合金としこれに黒鉛を内蔵させた材料の軸受耐久性は基材のみの場合と比較して、耐久性は優れている。

今後これらの材料開発を進めながら、自己潤滑性材料の新たな展開が機械産業の発展に少なからず寄与できればと思う。

最終更新 2013年 8月 29日(木曜日) 14:16